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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)12102号 判決

原告

ソニー株式会社

右訴訟代理人

中村稔

田中美登里

辻居幸一

被告

山中秀

主文

一  被告は、その営業について、「ソニー」の表示を使用してはならない。

二  被告は、原告に対し、金一六〇万円及びこれに対する昭和五八年一二月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

一原告訴訟代理人は、主文一ないし三と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

「1 原告は、昭和二一年五月七日設立され、「ソニー株式会社」の商号の下に、電子・電気機械器具の製造、販売ソフトウエアの企画、製作、販売、金属工業製品及び窯業製品の製造、販売、繊維製品、紙、木工品、日用雑貨品、食料品及び玩具の製造、販売、輸送用機械器具及び石油、石炭製品の製造、販売、不動産業、建設業及び運輸倉庫業、出版業及び印刷業、広告代理業、保険代理業、放送事業、旅行、スポーツ等のレジャー業及びその他のサービス業等を営業目的とし、これら各種業務を行つている多角的な企業体である。

2(一) 原告は、その売上高も昭和五七年度(自昭和五六年一一月至昭和五七年一〇月)においては、八三二九億九四〇〇円に達する世界的企業であり、その営業活動は、「ソニー株式会社」又は「SONY CORPORATION」若しくはその略称ないし営業表示である「ソニー」又は「SONY」という名称で行われており、また、原告の商品にはすべて「ソニー」又は「SONY」の商標が使用されており、原告は右営業について多額の宣伝広告費を投じている。

(二) 原告の傘下には、ソニー商事株式会社を初め二九社に及ぶ関連会社が存在し、いずれも「ソニー」なる語をその商号の要部とし、あるいは、これを略称若しくは営業表示の前部又は要部として使用すると共に、その取扱いに係る商品についても商標として使用している。そして、その営業活動は、電子電気機械器具の製造販売からレコードの製作販売、化粧品、日用品の製造輸入販売、スポーツ用品、トレーニング機器の輸入販売、語学教室の経営、不動産業、保険代理業、旅行、スポーツ等のレジャー産業及び割賦販売による金融その他のサービス業にまで及ぶものであり、更に多用化が進行している。

(三)  原告及びその関連会社は、常に原告を中心として、組織的に、また経済的にも人的にも緊密な関係を有し、社会経済的には原告を中心とした一つの企業組織体であるかのように「ソニー」又は「SONY」の表示の下に一団として認識されている。したがつて、「ソニー」又は「SONY」の表示は、原告を中心とするいわゆる「ソニーグループ」と呼ばれる多角的な企業組織体の商号の要部ないし略称又は営業表示としてわが国を初め世界的にも認識されている。

3  被告は、昭和五八年四月一日、肩書地において、「三秀企画」のこれまでの商号を「ソニー」に変更し、営業所のドアに「ソニー」なる表示を掲げ、同年六月一日ころより「神田ソニー」あるいは「日本橋ソニー」なる商号ないし営業表示を使用して日刊新聞紙においてその広告を行つている。

被告は、原告が被告を債務者として申請した東京地方裁判所昭和五八年(ヨ)第二五七九号仮処分申請事件において、同裁判所が同年九月二日にした仮処分決定によつて、「ソニー」の表示の使用の差止等を命ぜられたにもかかわらずこれに遵わず、同月一六日、右決定に基づく執行により被告の営業所のドアの「ソニー」の文字は抹消された。しかし、被告は、その後も依然として、「神田ソニー」あるいは日本橋ソニー」なる商号ないし営業表示を使用して日刊新聞紙にその広告を継続して今日に至つている。

4 前記2において述べたとおり、原告及びその関連会社は、原告を中心とした一つの企業グループと認識され、その営業活動も電子電気機械器具の製造販売からサービス業及び金融業を含む極めて広範囲に及ぶものであるから、被告が、「ソニー」又は単にその所在地を表わす語を付した「神田ソニー」及び「日本橋ソニー」の表示を使用して貸金業を営むならば、一般人は、原告又はその関連会社が貸金業へ進出したものと考え、被告のかかる表示の下における営業を原告の営業上の施設又は活動と誤認混同するおそれがあり、原告の営業は被告の営業と混同されることにより、営業上の利益を害されるおそれがある。

5  原告は、被告の右行為によつて仮処分申請、代替執行の申立て、また本訴の提起を余儀なくされ、弁護士費用として一五〇万円を支払つており、また、原告は被告の前記行為の調査費用として少なくとも一七万円を要し、同額の損害を被つている。

よつて、原告は、不正競争防止法第一条第一項第二号に基づく差止並びに同法第一条の二第一項に基づき右一六七万円の損害金のうち一六〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一二月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

二被告は、適式の呼出を受けたのに、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないから、民事訴訟法第一四〇条第三項本文、第一項の規定により原告の主張事実はすべて自白したものと看做される。

三右事実によれば、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を、仮執行の宣言について同法第一九六条の規定をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(牧野利秋 野崎悦宏 一宮和夫)

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